2017/09/07

2017/09/07

「週末は物件を見に行ってくるね」だとか「配属される部署が決まったよ」だとか「ソファ生活をしているから絶対買わなきゃ」だとか教えてくれる度に、わたしは「楽しみだねえ」だとか「どうするの?決まったら教えてね」だとか「あのソファがいいと思う、でもあれもいいよね」だとか本当に楽しみに思っていそうででも嘘くさいような言葉を返す。嘘なのかは自分でもよくわからない。

おじいさんは山へコーディングをしに、おばあさんは川へウェブデザインをしに行きました。

それでもデートが終わって一人部屋に帰ってから、たまらなくなってワンワン泣いたり、どうしようもなくなって「あと2ヶ月なんだからさァ」と管を巻いてしまったり、さすがに日が近づくにつれて、わたしはがまんできるたちではないということを自覚してきている。

 

きっかけはトースターだった。「どこのにするの?アラジンもかわいいし、でもバルミューダはおすすめ、本当に美しいし部屋の片隅にあるだけで天使だし真っ黒なところが最高だし焼いたものは多分おいしい、味のことはよくわからないけどおいしいんだと思う」と延々と語って、わたしのバルミューダ賛辞が途切れたあと、彼がポツリと言った、「でも最終的に良いトースターが2台になっちゃうから」。きょどきょど目まぐるしく視線を泳がせて、「あ、あ〜」としか声を出せなかった。これは。これは。

 

なあんて甘いことが起こっていても、わたしは結局名古屋に置いていかれ、それまでにも4月に入社した女の子(学生時代はスターバックスでアルバイトをしていた)が彼に色目を使う現場を間近で見せられクソがと思いながら片隅でひたすらMacにテキストを打ち込んだり、おそらく名古屋を離れたあとも彼の親切なところさっと扉を開けてくれるところ大変そうな現場をすっと見つけてさっと手を貸してくれるところ上司の扱いが上手なところ何事にもさらっと興味がありませんみたいな顔をしているのに実は野心があるところ爪が丸いところ猫を多頭飼いしているところ格好良いものを作ろうという熱意が絶えないところだからちょっと徹夜とか無理をしちゃうところ空でキーマカレーが作れちゃうところ世話焼きなところサッカー部のキャプテンをしていたところ車の運転がすきなところチャットの返信が早くて丁寧で気の利いているところコンビニで買うものが何かしら好感の持てるものであるところおいしいお店やお土産品や気の利いたプレゼントを知っているところ洋服選びに余念がないところ言葉の選び方がやわらかいところでも家族の前では俺っていうところかっこつけなところ甘やかすのがじょうずなところそういうところに千葉の女たちもどんどん惚れていってしまったりされるのだろう 何も知らない新入社員から夫のことで相談と言いつつ飲みに誘ってくる人妻まで わたしとお付き合いを始める前の彼の社内の様子を想像して、あれが千葉でも繰り返されるのだと思ったりする そんなことを思うと口の中に苦い味が広がる あ〜あ

 

心の底からすきですきですきで馬鹿の一つ覚えのようにこんなことしか書けないのだけれど本当にすきでもすきと信頼はイコールじゃない。別に信頼はしていない。会社をほいっと乗り換えたみたいに、わたしのことも乗り換えられるのかもしれないとどこかで思っている。所詮は他人だし、呪いのように将来について話し合うことはしたくない。その時が来たら、きっと悲しくてワンワン泣いて、何度誕生日がきて月日が経っても、「あ〜 彼は良い恋人だったなあ もしあの時別れなかったらどうなってたかな」なんて浴槽の中で夢想したりするのだろう。でもそれで良いと思っている。

 

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