2016/10/15

告白された日の話

何を言われているのか一瞬分からなかった。告白された。でも気持ちの良い耳鳴りもしなくて、よく分からない涙も出てこなくて、胃のあたりがぐっと重苦しくなっただけだった。これは、恋じゃないかもしれない。「付き合いたいと思ってる」と言われて、なんていったらいいかわからなかった。わたしはわりと表情や声色を作って他人と接することができると自負していたけれど、この時ばかりは、素直に「困っています」という喃語のような声が出てしまった。

そろそろ行こうか、といつもの60%の声色で言われて、わたしは頷くことしかできなくて、無言で山道を降って学校のそばを通り過ぎて、坂を登りきったところで、急に月が現れた。丸くて大きくて明るくて位置が低くて、穏やかな海がその光を受けて、広くて明るい光の道を作っていた。ムーンリバーだった。あまりにも美しいことにびっくりして、歩みが止まってしまった。最終便の船が行ってしまうかもしれないのに。「ああ」と、感動した声が素直に出てしまった。笑った彼が振り返る。夢の中みたいだった。「もういいです」と言ってしまう。何ですぐに答えることができなかったのかわからなくて、心の中がずっとぐちゃぐちゃしていて、酸素が頭に回っていないような感覚でなにも答えが出なくて、お腹も空いているし足も疲れたし、もういいじゃんこの島に泊まっていこうよ、月と海がこんなに綺麗なんだしずっと見ていようよ、ずっと波の音を聞いていようよ。でも実際にはそんなことはあっていいはずもなく、おとなしく船着き場まで一生懸命早足で歩いた。

ポール・ギャリコの新しいやつが出ていたのでと猫が好きな彼にお渡しすると、フラワーベースとドライフラワーをプレゼントしていただいてしまった。男性から「告白だから」と花束を渡されるのは初めてのことだ。ちょっとだけ泣きそうになった。この人は本当に格好いい。気を確かに持っていてよかった、後から後悔するところだった。「ベンツで迎えに来て船に乗せてくれて扉を引いてくれて花束をプレゼントしてくれる男性」。

(後ろから抱きすくめられてしまった。驚いて自分でわかるほど肩が震えた。「これはナシ?」と聞かれるが、言葉にならない声しか出なくて、「今日はアリにして」と言われる。顔を見ることができない。) 

人としても良いなと思うところがいっぱいあって、同じデザイン界隈の人間としても尊敬していて、男性としても格好良いと思えて、じゃあなぜダメなのだと責められると、自分でも説明がつかない。

「奴が君の前に現れたとき、さっと風が吹いた?ベールがそよいだ?月が大きく輝いた?」

笑いかけてくれただけでどうしても手を触りたくなってしまって、抱きしめあっただけで耳鳴りがするほど気持ち良くて、一緒にご飯を食べるとなんでも美味しいけれど胸がいっぱいで喉を通らなくて、そんな気持ちにならないのはわたしが悪いからなのだろうか。あんな奇跡みたいな恋を経験して比較してしまっているからなのだろうか。あの元恋人に拘泥しているわけでは全くない。そこだけは勘違いしたくない。人ではなく、あの時の感覚と比較している。あれはなんだったのだろう。わたしはあれが恋だと思っているのだけれど、他の人は何をもって恋だと認識しているのだろうか。

「あれは若かったからではないか」と言われて、確かにそうかもしれないと思った。あの視界がやけに光る感じ、でも胃が苦しい感じ、どうしていいかわからないどうしようもない感じ。あれは確かに若さのせいだからかもしれない。年齢を重ねるごとに冷静になっていっている感じはある、残念なことに。

少女漫画みたいなこと言ってんじゃあないよと怒られてしまった。でもわたしは経験してしまったのだ、少女漫画みたいな恋。

・酒が多く用いられる

・社内の人(=警戒心が強くなる)

・年上

・付き合いの長さ

・わたしがぐちゃぐちゃと考える体質に(より一層)なった

・言ってもらった時正面を向くことができなかった

・「本当に恋だと言える恋」っぽいものを経験してしまったあとだということ

あんなモテ男を捕まえておいてわたしは何をやっているんだ。格好いいと素直に思っていた人と手まで繋いでおいてわたしは何をやっているんだ。贅沢者だ、もったいないお化けが出る。曰く「チャラ男に弄ばれているというよりむしろ君が弄んでいるよね」。一連の流れを話すと、同期は「それはもう「好き」か「クズ」かだよ」と言った。今となっては彼は「好き」であったしどちらかといえばわたしが「好き」か「クズ」かだ。

「いやだと言われるまで諦めないよ」とメッセージが来ていて、くらっときてしまった。本当にそんなこと言える人がいるんだ。本当にそんなこと言ってもらえるのがわたしでいいのか。

赤ん坊のように「うー」「あー」しか答えられなかった(答えてもない)ので、「ちゃんと整理していつかきちんと自分の気持ちをお伝えします」とだけは伝えた。わたしはこれからどうするんだろう。 

絶対にかなうわけのない恋(恋?)だと思っていたから、格好いいとは思っていたけれど、自分の気持ちを見ないふりをして蓋を閉めてぐるぐるにガムテープを巻いて海に沈め込んで(目の保養心の潤い)と遠くから眺めているだけにしておいていたから、自分でも本当にわからなくなってしまった。食事に誘われても「どうせわたし以外の子とも行ってるし」と彼の言動に勝手に理由をつけて(実際に行っているはずなんだけれど)、「どうせわたしのこと珍獣を眺めるような気持ちで一緒にいるんだろうな」と彼の気持ちを勝手に決めて酒をかっぱかっぱ飲んでいた。

実際、本当に彼はよく分からない。わたしだって鈍くないし(性格が激悪いので)、普通の女の子(ex:西野カナ)よりはちょっと少なめかもしれないけれど恋愛してきたし、だから今まで「この人わたしのこと好きなんだな」と察してその後の自身の言動を決めることはよくあった。でも彼は本当によく分からない。何を考えているのか、何を考えてわたしと遊んでいるのか。

わたしはこれからどうするんだろう。 

 

 

2489文字