「あのとき以降悲しいことはなかった?」と聞いてくれた。この子はサラッとしていて話を聞いていると「これも道だよーあはは行き止まりかもー」と言ってズンズン進んでいってしまうのでとても愉快なのだけれど、たまにハッとするようなことを言う。「悲しいことはなかった?」と聞いてもらえて、とても嬉しかった。
お付き合いが始まってようやく一ヶ月ほど経つのだけれど、週六日ほど会っているため全くその感じがない。「せめて三ヶ月は経ったよね」「ですよね」。
彼はいつも、わたしの大事にしていることは同じように大事にしてくれる。一人でいる時間、いろんなものを観に行くこと、自身の家族、ライフで考えてきたこと、言葉への姿勢、誰かにとってはどうでもよくて「?」と言われてしまうようなことでも、「ジョンちゃんがそう言うならそうなんだね」と、垂れた目を細めてゆったりとした声色で頷いてくれるのだ。
「今まで一番のモテエピソードを教えてください」「タートルネックって着ますか」「生きるってなんだと思いますか」と突拍子のない質問をするのはだいたいわたしの役目なのだけれど、最近は彼も「今までで一番価値観が変わったのはいつ?」「思春期の頃よく聞いたアーティストは?」と聞いてくれるのだった。最初のは京都でお昼ご飯にパンを買って公園で食べていた時だ。日なたが暖かくて、紅葉した木々がきらきらとしていて、揚げたてのコロッケを食べながら、膝にまだ暖かいパンを乗せて、隣に恋人がいて、天国かと思ったのだった。
いつも格好いいと思っているから、わざわざ口に出して言ったことはない。ただかわいいと思った時はそのままそう言う。「そのセーターかわいいですね」「髪、片っぽ耳にかけるのかわいいです」。彼も基本的にわたしを「かわいい」だなんて褒めなくて、「良いと思うよ」とかいつもの60%の声色で言うくせに、いつもぐりぐりと頭をなでてくるし、メッセージになると途端に「かわいくって仕方がない」「かわいがるのが楽しい」「『それはそれはかわいいんだ』だよ」とか送ってくる。甘やかされている。
取締役兼事業部長の人と飲みに行ったから言っちゃったよ、というメッセージが来たため無言でSHISHAMO「僕に彼女ができたんだ」のURLを貼った。
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