2016/11/20

また、こんなにも人を好きになることが出来て、驚いている。

遠いところにいる男の子だと、ふとした瞬間に目の前がくらっとする。すっごく他人だ・と未だに思う。たとえばわたしといるときにする第三者に対する受け答えだったり、彼の昔馴染みの友達だという明るい髪色をしたお洒落な友達の写真だったり。わたしにとって男の子はいつも遠い存在であったし、彼の住むその世界はさらに遠い星にある。なんかこう、(こんなこと言ったらジェンダー的には怒られるかもしれないけれど)男の子には男の子の独特のノリがあるよね。

 

頭の裏が白く痺れて甘い。何を話してもニコニコしてしまうし、触れてもらうと嬉しくて、「好きだー!」という気持ちを込めてお返しに触れる。彼がわたしの下の名前を呼ぶ毎に未だに心臓が浮き上がる感じがしてしまう。だけれど、彼が細い身体の割にご飯をたくさん食べる様子には慣れてきた。生活感が感じられないので、出会った当初はこの人ご飯を食べるのかしらと疑ったものだった。しかし今は「いっぱい食べて大きくなれよ!」と思って眺めている。まあ相手は180超えた大の男なんですけれど。わたしの方といえば、彼の下の名前を呼ぶことに全く慣れることができない。

 

彼はわたしの知らない広い知識を持っているし、わたしは彼の知らない世界を知っている。社会の薄暗いところを知らずに生きてきたんだろうまっすぐなところ、負けず嫌いでいくつかのポリシーを持っていて自分の理想を追いかけた結果今の彼があるところ、彼はわたしと全然違うし、わたしは彼と違うからこそ彼に好かれたのだと自覚もある、そしてわたしは彼と違う自分自身のことが好きだ。彼に好かれる自分のことが好きだ。

彼はたまにわたしのまず思いつかないようなことをやってのける。珍しく彼が先に上がった日、コートのポケットに手を突っ込むと見知らぬキャラメルが入っていること。飲食店では必ず上座を譲り、扉を開けてくれるのはもちろん、わたしが先に扉を開けても後ろから手を伸ばして扉を支えてくれたり、コートを着せてくれたり、混んだ電車で近くに来てくれたり、映画館で飲み終えたカップを持って行ってくれたり、カウンターでビールをあおっているとちょんとわたしのふとももを小突いて「スキンシップだよ」と言ってのけたり、ああそういうえば付き合う前にも目配せの代わりに手をちょいちょいと触られてそのまま机の下でみんなには内緒で手をつながれたり、酔っ払ったわたしを支えがてら手をつないできたり(しかも指を絡めるタイプのつなぎ方である)、さすが社内でチャラ男の冠をもらっているだけある。チャラチャラである。わたしが告白を保留(?)にした時これからの戦略を立てて「まずわたしの直属の先輩や上司を味方につけ外堀を埋める」ことを考え実践したという話をあとから聞いた時、くらっと宇宙の風景が目の前に広がって、「この人とは違う世界線だ」と思ったのだった。彼は自分に自信があって(自信を持てるように今まで積み重ねてきたのだと思う)、わたしとは違う文化で生きてきたんだと思い知らされる。

 

どんな少年だったんだろうとかどんな高校生だったんだろうとか、知りたくもあり、でも聞いてもどうしようもないし、なんとなく聞きたくないというか、現在の目の前に彼がいることだけで充分と思いつつ、その微妙な気持ちをうまく言葉にできなくて、獣医になりたかった話とか、サッカー部とバンドを掛け持ちして結局サッカーをとった話とか、を、おとなしく聞く。茶髪の頃の写真を見せてもらったり、成人式の時の、今のわたしよりも年下の彼の写真を見せてもらったりする。わたしはもう一生、今より過去の彼を見ることはできない。その絶望的な響きに、長く連れ添った誰か(たとえばたまに話に出てくる幼馴染のミタニくん、とか、前職から一緒に引き抜かれてきた鈴木さん、とか)に嫉妬してしまうかと思いきや、別にそれで良いと思っている自分がいて、淡白で冷静な自分に驚いた。それはきっと二つ理由があって、わたしの過去は同じように一生見られないで済むという薄暗い安心感と、これからは気の済むまで側にいていいと彼が開いてくれるからだ。早くおじいちゃんおばあちゃんになりたいね、とか、大きな犬を飼おう、とか、文字にすると恥ずかしく陳腐なのだが、そういう話ができてたのしい。

 

とりあえず社内でもの(たとえばMacBook Airとか)を渡してくれる時に、こっそり手をちょんちょんと触ってくるのは辞めてほしい。

 

 

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