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無題

2016/04/16

だいきらいだった祖父が亡くなった。

 

今夜かもしれないと連絡があって、会社から走っているうちに涙が出た。驚くほど、気が動転している。

長い夜だった。病室でうつらうつらしながら、彼を見つめる祖母の横顔を見る。

朝日が昇るのを、家族で見た。朝が来るのが、こんなに待ち遠しかったのは初めてかもしれない。なんとでもなる気がした。医者が言う「今夜が山場」は大げさという話は本当だったんだと、心の隅で思った。ご飯を食べに他の家族が病室を離れたので、祖父にゆっくりと話しかける。

朝7時には、(彼の)弟が来るからね、待っててねと何度も言いすぎたせいなのか、本当に7時に息を引き取った。時間に厳しかった祖父らしいと、大笑いしてしまった。きれいな天気。

 

ちょうど、彼と祖母が手入れをしていた庭の藤が、ぼろぼろと咲いている。身なりを整えてもらうと、短髪が好きでむっつりと口を結んでいた祖父に戻って、わたしはようやく「帰ってこれたね」と言えた。

血の濃い四日間だった。代わる代わる親族がやってきたので、ひたすら茶を出す。

彼が見たいと毎年言っていた桜を、棺に入れた。日本酒と、カップヌードルと、焼き鳥なども。買出し係のわたしが思いつく彼の好物はそんなジャンクなものばかりで、よくおこぼれをもらっていたことを思い出して笑う。

 

「わたし」は、この部屋でつくられた。わたしはこの部屋で、シルバニアファミリーで遊び、自作の漫画を描き、テスト勉強をし、徹夜で課題をやり、本を読んだ。膨大な時間を、部屋にこもって一人で過ごしてきた。自室で過ごした時間は、他の人に比べるときっとものすごく長い。この家は、わたしが幼稚園児だった頃に建てられた。家を建てたいというのは、祖父の気持ちだったそうだ。わたしが「わたし」であるということに、彼はものすごく影響している。

 

もう祖父の怒鳴り声は聞こえてこない。呆れたように笑って、甲斐甲斐しく世話をしていた祖母も、きっともう見ることはない。これからどうしようか。ゆっくりと訪れた死ではあったけれど、祖母の肩は落ちている。これからどうしようか。新しい家族のあり方を、これからのことを、考えている。

 

 

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